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第15回三島クリニック講演会

2016年2月7日開催

 講師  医療法人社団清永会 矢吹病院
    
  副院長 政金 生人先生
         
 演題  「じぶんでチェック じぶんの透析」


【講演内容】 

 「よい透析」とは、まず一番目に透析がつらくないということです。透析をするとものすごく疲れた感じがするとか体の痛みが強くなるなどで2時間くらい寝ていないと動けないというような場合は、もしかしたら透析が合っていないサインの一つかもしれませんので透析方法を工夫する必要があります。透析がつらいとどうしても元気がでないし買い物にも行けない、買い物に行けたとしても料理も作る元気がないので結局出来合のもので食事を済ませてしまうというようなことになります。そういったことで、つらい透析を続けていっているとどうしても合併症が多くなりますし、長生きができません。
そのため、「よい透析」とは、透析がつらくなく、毎日元気で、合併症がなく長生きできる透析ということになります。

 主な末期病態の5年生存率(アメリカのデータ)では、AIDS(エイズ)95%以上、睾丸腫瘍95%、乳癌85%、膀胱癌75%、腎臓移植75%、直腸癌62%、子宮頸癌60%、大腸癌54%、人工透析46%(日本では57%)、卵巣癌44%、腎癌20%、肺癌10%となっています。このように透析を受けても5年生存率は子宮頸癌や大腸癌などの末期癌と同じ程度というのが現実です。だから、患者さんが「透析が必要です」と医師から言われた時は、末期癌の宣告と同じくらいのショックを受けます。
 しかし、なぜ末期癌もないのに透析での5年生存率がこんなに低くなるのでしょうか。なぜ長生きできなのかの理由を考えるのに、初めにお話した「症状に注目しましょう」ということが重要になってきます。そこで、矢吹病院では愛Podシートという調査用紙を使って自覚症状調査を年2回行っています。
 愛Podシートには透析・日常生活にかかわる質問20項目(関節痛、かゆみ、いらいら、不眠、だるさ、動機や息切れ、便秘、頭痛、透析中の血圧低下、筋肉けいれん、穿刺痛、食欲、口渇、うつ傾向など)について5段階のフェーススケールで点数化し、その合計点で症状の多さ・強さを評価します。点数が低いほどつらい症状が少ないということになります。すべての症状がないと合計点最高点が0点×19問=0点(20問目は合計点に含まない)となり、すべての症状が一番強いと合計点最低点4点×19問=76点となります。愛Podシートは矢吹病院のHPからダウンロードできますので印刷して自分ですることもできます。
 矢吹病院で愛Podシートを使って患者さんの愁訴(つらいこと)を調査してみると、季節によって症状に変化はありますが、一番多いのが関節痛(膝痛、腰痛)で30%くらいの人が苦しんでいて、次が透析中の血圧低下で25~30%くらい、そしてなんとなく憂うつ、何にも興味がわかないという人が30%くらいいました。後は、かゆみがある、食欲がない、という人が5%くらいいます。これら愛Podシートの質問項目の合計点が30点以上の人、すなわち症状が多い人について、統計で解析してみると長生きができていませんでした。こういったことから痛みとかかゆみなどいろいろな症状が多い人は長生きには要注意です。特に、かゆみ、眠れない、透析中の血圧低下、食欲がない、うつ傾向(憂うつ・興味がわかない)といった症状があると長生きできないという論文も出ています。
 しかし、一方こういう症状が全くない透析患者さん達もいます。例えば、カナダで1回8時間週6回の在宅透析を受けている人達です。日本では一般的に週3回の4時間透析ですから週当り12時間ですが、在宅透析では週当り48時間することになり、単純計算でも4倍の透析をしていることになります。在宅透析をしているある男性は過去2回の腎移植を受けていますが、現在の在宅透析の方が体調がいいので3回目の移植は受けたくないと言っています。また、透析を受けている妊婦さんの場合、日本では羊水過多などになりやすく、ほとんどの女性は帝王切開で出産し子供は未熟児で生まれることが多いのですが、在宅で週6回8時間透析を受けている妊婦さんはみんな自然分娩で3000g以上の赤ちゃんが生まれるそうです。
 
 こういった例だけではなく
一回8時間週6~7回透析を受けることによって、
生命予後の改善……寿命は腎臓移植を受けた患者と同じです
QOLの改善の改善(自他覚的)
 皮膚症状の軽快……かゆみがなくなる
 透析低血圧の消失
 透析時の筋けいれんの消失
 睡眠障害(不眠・睡眠時無呼吸症候群)の改善
 認知機能の改善
 栄養状態の改善・食事制限の緩和撤廃……食べないと怒られる
 腎性貧血の改善
物質除去の側面
 B2MG除去効果は4倍
 P除去は著効、PTHの低下 
 などの効果があります。
 
 週3回の透析では2日あきの時ができますが、それがバイオリズム(生体リズム)を乱し、不眠症の原因になるだけでなく、体の変調(心不全・脳出血などの心血管障害)を来す原因の一つになるといわれています。分かりやすく言うと、月水金透析の人は、日曜日の夜か月曜日の朝、火木土透析の人は月曜日の夜か火曜日の朝に体の変調が起こりやすいということです。
 
 腎機能が100%を正常とすると7~8%まで低下すると尿毒症症状が出て、透析治療開始となります。透析治療開始から数カ月後までは残腎機能(残っている腎機能)+透析で体調も良くなりますが、やがて残腎機能がなくなる(尿量がほとんどなくなる)と透析だけで生きていることになります。そうするとかゆみが強くなったりイライラしたり疲れやすいといった尿毒症の症状がまた出てきます。週3回4時間透析では、腎機能が7~8%になった透析治療開始時点の働きを代行するに過ぎません。高血流量でどんな優れた透析をしてもせいぜい10%程度の腎機能の働きしかできません。結局のところ週3回4時間透析の患者さんはみんな透析不足という訳です。透析効率には何より時間が重要なのです。週6回8時間透析をすれば30%程度の腎臓の働きに匹敵します。30%程度の腎機能ならほとんど何の症状も出ません。
 透析不足(尿毒症)では、かゆみ・イライラ・RLS(むずむず脚症候群)などの症状により抑うつ状態・QOL(生活の質)低下・睡眠障害がおこり死亡リスクを上昇させます。

 
要注意の症状をまとめると
 栄養障害(体重減少・筋肉の減少)
 透析中の血圧低下(40以上の低下)
 透析後の長引く疲労感
 なんとなく活気がない、抑うつ症状
 不眠
 皮膚のかゆみ
 この中で筋肉の減少は特に重要です。透析では筋肉の素になる栄養素も抜けますので栄養障害に陥りやすく、しっかりタンパク質をとって運動しないと筋肉が減少していきます。透析患者さんでは体重や脚の大きさは変わっていなくても筋肉が落ちて脂肪に変わっている場合がほとんどです。「霜降り」はダメです。本人が思っている以上に脚の筋肉は落ちています。元気でいるためには、「よく食べて、しっかり透析し、よく動く」ことが大切です。
 透析は生きるための手段であって、生きる目的ではありません。言い換えれば、透析をするために生きるのではなく、生きていろいろなことをするために透析をしているのですからとにかく動かないといけません。そのためにも脚の筋肉を落としてはいけないのです。
 
 
安楽で十分な毒素がとれる透析をするためには、
透析時間や回数を増やす
 30分の透析時間延長でも続ければ体調が違ってきます。
塩分に気をつける
 塩分をとると水分摂取量が増え、透析での除水が多くなります。
 透析で1時間当り0.6㎏(600g)以上の除水をすると血圧は下がります。
自分の体にあったダイアライザを選ぶ
 効率のいいダイアライザが自分の体に合っているとは限りません。
 いろいろな種類のダイアライザを試してみることも大切です。
オンラインHDFをする
 
 いい透析を続けていくためには、医療スタッフが患者さんの言葉に真摯に耳を傾け、患者さんも自分の受けている治療に関心を持って、お互いいろいろ話し合える環境をつくることが必要です。
 
 話しをする場合は医療スタッフも患者さんも科学的に正確な考え方に基づいて話し合うことが必要です。
 たとえば、
1.体重増加……「水分注意」という言葉は無しにしましょう。
①必要なのは塩分制限
②食塩8g摂取で体重が1kg増える
③体重増加5%と減塩指導(1日当り食塩7g)の矛盾
④透析患者には味覚障害が高率にある
 体重が1㎏増えてきたことは食塩8gを摂ったこと以外に理由はありません。
「体重増加5%」にこだわった指導をしていると、
ドライウエイト100㎏の患者さん(患者Aさん)が2日あきで4.8㎏増加してきたとすると、体重増加4.8%で良好、ドライウエイト30㎏の患者さん(患者Bさん)が2日あきで1.8㎏増加していると体重増加6%だからダメ、といった指導になってしまったりします。
 しかし、食塩8g摂れば体重が1㎏増加するということから、Aさんは、8g×4.8=38.4g、1日当りでは38.4g÷2.5日=15.4g(2日あきだと2.5日で割ります)の食塩を摂ったことになります。一方、Bさんは1.8㎏の増加なので、8g×1.8=14.4g、1日当りでは14.4g÷2.5日=5.8gの食塩を摂ったことになります。このように2日あきで5%以内の体重増加ばかりに目を奪われていると減塩指導1日当り7gとは矛盾が出てきます。
 体の大きさによって水分増加による体への負担が違うので一応ドライウエイトの5%以内と決めていますが、水分増加の割合だけでなく「食塩8gを摂ると1㎏体重が増加する」ということをスタッフも患者さんも理解した上で話し合わないと話がややこしくなり、間違った指導をしてしまうことになります。

2.リンが高い……「何食べたの」はダメです。
①透析患者は透析不足
②高リン血症の原因は食事だけではない
 副甲状腺ホルモン(PTH)が高くて、ビタミンDをたくさん服用したり注射(ロカルトロール、オキサロールなど)をしている人はどうしてもリンが高くなりやすいため、リンが高いからといって全てが食事が原因(りんが多いものを食べ過ぎた)という訳ではありません。確かに尿素窒素(BUN)が100くらいでリンが7程度まで上がっていたらリンを多く含むタンパク質を食べ過ぎたといえるかもしれませんが、副甲状腺がちゃんとコントロールされていなくて尿素窒素も低いのにリンの値だけをみて「何を食べたの」と患者さんを問いつめるのは一種の冤罪です。
 このように、「医療スタッフも患者さんも科学的に正確な考え方に基づいて話す」ことは大切ですが、ダイアライザや透析方法などがその患者さんに本当に合っているかどうかということについては、実際に透析を受けている患者さん本人にしか分かりません。患者さんが一番調子がいいといったダイアライザや透析方法がなぜその人に合っているかの科学的裏付けを調べるのは医療者側の役目で、その裏付け(証明)を患者さんに求めてはいけません。

 
健康に生きるためのセルフケア(自己管理)としては、
1.目的主義の考え方
 説教臭くなってすみませんが、透析は目的ではありません。透析をすることは確かにハンディキャップですが、どんな人にもハンディキャップはあります。透析を受けているからといってできないことはほぼ何もありません。「何をしたいか」を自分に問いかけ、したいことをあきらめないで目的をもって何でもしてください。
2.脱、薬漬け……風邪薬、鎮痛剤、湿布、眠剤
 慢性的な痛み(腰痛・肩痛など)は筋肉が硬くなるからで、その原因は血流障害です。血流障害のため痙攣して痛みが出るわけです。慢性的な痛みは温めないと治りません。湿布は貼った時は気持ちがいいですが体を冷やすので良くないです。鎮痛剤も解熱剤なので体を冷やします。漢方薬、例えば葛根湯を飲んで体を温めるといいです。体を温め体操で筋肉をほぐしたり、立ったり座ったりする姿勢を正しくすることで腰痛・肩痛や関節痛もかなり良くなります。
3.口腔ケア……歯磨き、フロスの使用
4.フットケア(足を大事にする)
5.して差し上げるのではなく、自分でするのがあたりまえ。

 
 個人的な考え方ですが、「同行二人」という態度で患者さんと接していければいいと思っています。これは、一方的に指導するのではなく、患者さんが透析をしながら生きていくということに対して「もう少しこうしたらいいんじゃないの」と患者さんといつも話し合いながら傍にいる存在でありたいと思っています。

 「同行二人(どうぎょうににん)」
・お遍路さんはいつもお大師様と一緒です。
・旅の道づれはお大師さまですが、巡礼や遍路は「日常の私」であり、お大師さまは「本質(本来)の私」にほかなりません。
・ことあるごとに泣いたり笑ったりする感性的な「日常の自我」と、それに呼びかける「本来の自己」の同行二人は、ときには並び、ときには前後し、さらに影と形とが重なりあって、まるで一人の人格のようになって毎日を生きるのが、ほんとうの生き方なのです。ところが、現代人はたいせつな本質的な自己が不在で、日常的な自我の一人ぼっちです。

 「ひたすら我慢の透析」と「愁訴(つらい症状)がない快適な透析」のどっちが元気で長生きするかはよくお分かりだと思いますので、これに関して先生とよく相談して自分の透析ライフを豊かにしていただきたいと思います。


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