透析患者さんに起こりやすい病変

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消化器の病変

 胃のあたり(上腹部)が痛い、吐き気がある、吐くなどの症状は、透析者の皆様には、よくみられる訴えです。これらの症状には、透析が適正に行われなかったことによる場合もありますが、胃や腸などの消化管の病変によって生じる場合も少なくありません。

 透析をうけている方には、胃炎や胃潰瘍をできやすくする要因が多数あります。例えば、胃液の分泌異常、肉体的・精神的ストレス、いろいろな薬の服用、これに胃粘膜の防御因子(胃粘膜にある胃液から胃壁を守る機構のことです)の低下、胃粘膜での血流量の低下などが加わり、容易にビラン(ただれ)や潰瘍ができやすくなっているのです。

 潰瘍などの消化器疾患を放置することは、きわめて危険なことです。例えば、消化管の病変を示す自覚症状として重要なものに、排便時に肛門より出血する「下血」があります。これは、胃・腸管に傷ができてそこから出血していることを意味していますが、透析患者さんにおいては、消化管の出血は重大なことです。なぜなら透析では、ヘパリンなどの抗凝固剤を使用するため出血を増悪したり助長しやすく、時には高度の貧血を起こし生命の危機を生じさせるほどになることもあります。

 実際、この消化管出血は、長期透析者の直接的な死因の上位にある見逃せない症状なのです。なお、医学の進歩した現在では、潰瘍などの消化管の病気は早期に発見されれば確実に治ります。

 次に、少し恐い話になりますが、透析者の平均年齢が高くなっている今、多くの方が「癌世代」になっています。いろいろな調査において、透析者の悪性腫瘍(癌)発生率は健常者よりかなり高率です。また、悪性腫瘍(癌)のうち消化器の悪性腫瘍(癌)が半数以上を占めています。
 
 まず、胃癌では、胸やけ・上腹部の不快感や痛み ・吐き気や嘔吐(おうと) ・胃部のしこり ・食欲不振 ・体重減少や体がだるい などの症状が出現します。もちろんこのような症状は胃癌以外でも出現します。例えば胃潰瘍・胃炎・ストレス等でも出現します。


 次に、大腸癌ですが、大腸癌は最近増加傾向が著しい癌です。大腸癌は、非常に出血しやすい性質があり、検便(便の中の血液を測定)する方法で癌を発見します。なお、便検査は早期癌では陽性になりにくいことがあります。大腸癌では、・便秘や下痢を繰り返す ・便に血液が付着する(肉眼的には分からない場合があります) ・便が細くなる ・上腹部の不快感 ・残便感 ・体重の減少や体がだるい などの症状が出現します。なお、このような症状は大腸癌以外でも出現します。

 胃癌・大腸癌では胃や大腸に癌がとどまっているときに手術すれば、 80%以上の人が助かると報告されています。その上、早期癌なら90%以上治癒します。

 透析患者さんには、免疫機能の低下という問題があり、それが人間が本来持っている癌の抑制機能を弱めていると考えられています。言うまでもなく、癌を治すには「早期発見・早期治療」につきます。健常者でも「癌世代」の人は、早期発見には年一回の検査が必要とされているのですから、透析者の場合は、それに増す頻回の検査が必要なのです。いろいろな消化器症状を「よくありがちな症状」と軽くみないで、積極的に検査を受けられることをお勧めします。

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後天性多のう胞化腎(ACDK) 
 透析が長期になると、思いがけない病態が出ることがあります。
以前は、透析者の腎臓は小さく萎縮する一方だと考えられていました。確かに、透析を導入して(個人差もありますが)大体6年くらいまでは、腎臓は萎縮してだんだん小さくなります。ところが、それ以降透析治療を長期間継続するにしたがって萎縮した腎臓にのう胞(小さな風船のようなもの)が多数出現するようになり、こののう胞のため萎縮していた腎臓が全体としては次第に大きくなることが分かりました。これを「後天性多のう胞化腎」といいます。

 導入期まもない透析患者さんでは、まだのう胞はほとんどないのですが、透析期間が長くなるにしたがって増えていき10年以上の透析患者さんでは、90%以上の方にのう胞がみられ、その内の3分の1以上の人には10個以上ののう胞ができているといわれています。
なお、のう胞は原疾患(何が原因で腎不全になったか)に関係なく発生しますが、男女差があり、男性にできやすい傾向があります。どうして男性に多く発生するのか、そもそもなぜのう胞が発生するのかは、いろいろ原因が考えられていますが根本的な事は現時点では不明です。

 こののう胞化腎の合併症としてはのう胞内の感染、のう胞の破裂、のう胞からの出血等がありますが、最も重要で怖いものが「腎癌」の発生です。透析期間が長くなるにつれて、癌化したのう胞が高頻度で発生することが分かっています。透析者における腎癌の発生率は健常人の15倍程度との報告もあります。

 長期透析患者さんに認められる「血尿の出現」はこれら合併症(のう胞内の感染・のう胞の破裂・のう胞からの出血・腎癌)の重要なサインですから早急な検査が必要です。しかし、ほとんどの場合、のう胞化腎に合併する腎癌の初期には自覚症状がありません。ちなみに血尿によって腎癌が発見される頻度は少なく、腎癌の約80%は定期的な検査で発見されているといわれています。
不幸にして腎癌が発生していたとしても、のう胞化腎に合併した腎癌は早期に摘出しさえすれば、生命に危険を及ぼすことはありません。

 こういった事から、当院におきましても透析者の皆様には、定期的に腹部のCT撮影(または超音波検査)を受けていただいています。
また、腹部CT撮影では腎臓以外の臓器、肝臓・胆嚢・膵臓・脾臓等も同時に調べられますので、腹部臓器の悪性腫瘍発見のための検査でもあるわけです。
 

透析を受けながら、長生きするためには、これは健康な人にも当てはまることですが、いろいろな病気を「早期発見・早期治療」することが大切なことは、どなたにも容易にご理解いただけると思います。癌は今や決して「不治の病」ではありません。

自分自身の体を守るために腹部CT撮影や内視鏡検査(胃カメラ・大腸内視鏡)は、怖がらず面倒がらず、積極的に受けていただきたいと思います。


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