透 析 中 の 血 圧 低 下
                                    
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 血圧とは、動脈の中を血液が流れる時に血液が血管壁を押す圧力のことです。そしてこの血圧は専門的な言葉で言うと、循環血液量(心臓から送り出される血液の量)と末梢血管抵抗(細い動脈の緊張‐収縮・拡張‐の程度)によって決まってきます。循環血液量が多くなる・末梢血管抵抗が上がる、と血圧は上昇し、その逆、循環血液量が減少する・末梢血管抵抗が下がる、と血圧は下がります。

 こまで読むと難しそうに感じると思います。確かに血圧に関するしくみはかなり複雑ですが、細かいことは抜きにして、とりあえず、皆様に理解していただきたいことは、透析患者様の血圧を決める一番の要素は、「体液量」すなわち「体の中の水分量」だということです。先ほど「循環血液量」という言葉が出てきましたが、循環している血液も体液の一部ですから、循環血液量の増減で血圧が上下する、体液量(体の中の水分量)の増減で血圧が上下する、これだけはぜひご記憶いただきたいと思います。

 透析中は、血液中の水分を抜くことによって循環血液量が徐々に少なくなりますから、それに伴ってある程度血圧が下がってくるのは当然といえる現象です。しかし、透析患者様の中には、透析のたびに血圧が下がり過ぎて、透析がつらく苦しいものになっている方が多くいらっしゃいます。

 血圧が下がってくると、あくび・倦怠感・頭痛・胸痛・腹痛・動悸などの症状が出ますが、「体が熱い」「眠い」「ムカムカする」「トイレに行きたい」などと訴える方も多いようです。さらにもっと急激な血圧低下の場合には、全身の発汗、顔面蒼白、嘔吐(吐く)、意識障害などが起こります。このような状態を「ショック」といいますが、ショックは直接生命にかかわる危険な状態です。


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 透析中の低血圧の主な原因としては、「体重増加が多すぎる」、「ドライウエイト(基礎体重)が低すぎる」、「心機能の低下」などがあります。これらについて話を進めていきたいと思います。

 体重増加が多すぎると、体にたまった大量の水を四時間あるいは五時間といった短い時間で抜くわけですから、水が多いほど除水速度を多くしないといけません。除水速度を多くするということは、急激な除水をするということです。透析中血圧が下がり過ぎる患者様のうちほとんどの方が、この体重増加が多すぎるため急激な除水を行うことが原因になっています。

 ここで基本的なことで確認しておきたいことがあります。患者様の中には、体重がたくさん増えた時、体が太ったと思っている方がいらっしゃいますが、一日あるいは二日で脂肪や筋肉が極端に増えるということはありませんので、体重増加はすべて水がたまっていると考えてください。

 では、「急激な除水でなぜ低血圧になるか」、その理由を説明したいと思います。

 血液透析で体から余分な水を抜くといっても、一つの大きな袋から水を抜くのとは全然違います。体の中の水分量(体液量)は、体重のおよそ60%といわれています。体重が50sの人なら体の中に30リットル の水があるということになります。その30リットルが、血液中に血漿(けっしょうと読み、血液中の液体成分のことです)として2.5リットル(体重の5%)、組織間液(毛細血管と細胞の間の液で間質液ともいいます)として7.5リットル(体重の15%)、そして残りの20リットル(体重の40%)が細胞内液として存在しています。

ねむのき(合歓木)
 ややこしくなりましたが簡単にいうと、体の中の水は三つの部屋に分かれて存在しているということです。そして、血液中にためておける水分の量は決まっていますから、尿量がほとんどない透析患者様では、血液中の水分が多くなりすぎると、過剰な水分は血液中から漏れ出て組織間液の方へ移動します。ちなみに、組織間液(間質液)が増加した状態を「浮腫(むくみ)」といいます。従いまして、ほとんどの透析患者様が透析前には顔や手あるいは足などにむくみが出てくるわけです。

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 透析で除水をすると、まず血液中の水が抜けますので循環血液量が減少しますが、その減少した分を補うため血管の周りの組織間液(間質液)が血管内に移動してきます。この現象をプラズマリフィリングといいます。(プラズマとは「血漿」ことで、リフィリングとは「再充填」とか「補充」という意味ですので、日本語では「血漿再充填」あるいは「血漿の補充」ということになりますが、プラズマリフィリングという言葉が使われることが多いようです。)

 体重増加が少なければ、血液中から水を抜いてもプラズマリフィリングによって循環血液量はある一定の量を維持することができるため、大幅な血圧低下はありません。しかし、体重増加が多くて大量に除水する場合は、血液中から水を抜く速度がプラズマリフィリングの速度を大きく上回るため循環血液量を維持することができなくなります。循環血液量の急激な減少は最初に説明しました通り、急激な血圧低下になります。

さるすべり(百日紅)
 ややこしく感じられるかもしれませんが、三つの部屋のうちの一つである血液中から水を抜くスピードが速すぎて、隣の部屋からの水の補充が間に合わないため、血液の循環量が減り血圧が急激に下がるということです。

 プラズマリフィリング(血漿再充填)の速度は個人差がありますが、体重50sの方で一時間に500〜600ml程度といわれていますので、四時間透析であれば2s程度までの体重増加(水分増加)であれば楽で安全な除水が可能であると考えられます。

 体重が50sの方で2sということは体重の4%ということになります。体重の増加が4%では厳しいと感じる方も、できるだけ5%以内の体重増加に抑えていただきたいと思います。統計的にも6%以上の体重増加では死亡リスク(危険度)が著しく高くなることが明らかとなっています。

 なお高齢の方、糖尿病がある方、心臓に問題のある方、心胸比が大きい方は体重の4%以内の増加に抑えるよう一層の「水分管理」を心がけていただきたいと思います。自分で飲むことのできる水の量はおよそ1日あたり「尿量+700ml」程度と御理解ください。

基礎体重
(ドライウエイト)
体重増加の目安
(2日あき)
40s 2.0s以内
50s 2.5s以内
60kg 3.0s以内
70kg 3.5s以内
高齢・糖尿病・心臓に問題のある方など
40s 1.6s以内
50s 2.0s以内
60s 2.4s以内
70s 2.8s以内
 体重増加が多い患者様は、もう一度食生活を見直してください。そして、水分制限を心がける前に、まず一日5〜7g以内の塩分制限に努力してください。塩分をとった後ののどの渇きは絶対我慢できませんので、知らず知らずに水分を飲んでしまいます。

 とにかく薄味に慣れてください。そうすれば水分管理は必ずできます。なお、誤解があるといけませんのでここで触れておきますが、水分をとるということは水を飲むことと同じではありません。つまり食べ物の中に含まれている水分をも考えに入れなければなりません。回診で水分をひかえるようにお話すると、薬を飲む水以外は飲んでないとおっしゃる方がおられますが、食べ物の中の水分もひかえる工夫もしてくださいという意味もあるのです。


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 次に、「ドライウエイト(基礎体重)が低すぎる」についてですが、設定したドライウエイトが低すぎると、透析の後半に循環血液量が著しく減少してきますので、透析の後半に血圧が下降し始めます。そして透析終了前に毎回のように著しい低血圧になることが多くなります。また、透析後半や透析後にしばしば筋けいれん(ひきつり)が起こったり、強い倦怠感や声がかれるなどの症状がでます。
 こういった症状がおこった場合は、透析終了時にHANP(ハンプ)という血液検査を行い体の水分量をみたり、心胸比を測定したりして、適正なドライウエイトに再設定することが必要になります。

血圧を決定するものとして「循環血液量」という言葉が何度もでてきましたが、その循環血液量をもたらす基になるものは当然心臓ということになります。ですから、狭心症や心筋梗塞(虚血性心疾患といいます)、あるいは左室肥大や心不全などの心疾患の合併により心機能が低下している場合には、心臓から十分な血液を送り出すことができなくなり(難しい言葉では心拍出量の低下といいます)、結果として循環血液量が減り血圧が低下します。
 心疾患を合併している場合は、少量の除水でもすぐ血圧が下がったり、透析開始直後に血圧が下がることが多いといった特徴があります。


 皆様が楽な透析ができるかどうかは、透析中の血圧の変動にかかっています。私どもは透析中の血圧管理に対して、原因を見極め今後も考えられるあらゆる方法で対処していきたいと思っています。ただし、「体重の増やしすぎ」だけは、皆様に努力していただく以外に方法はありません。心当たりのある方は、ぜひ今一度、一日700ml以下の「水分管理」とその前提となる一日あたり5〜7gまでの「塩分制限」についてお考えいただきたいと思います。


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