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「新春」

皆様、明けましておめでとうございます。いよいよ令和2年、オリンピックイヤーを迎えることとなりました。今年は暖冬であると言われていましたが、ここ数日は結構寒い日が続き、冬らしくなってきたようにも思われます。皆様の体調はいかがでしょうか。ちょうど四国中央市も今インフルエンザの流行の真っただ中にあります。うがい、手洗い、マスクの着用をしっかり行っていただきまして、インフルエンザ、感冒、ノロウィルスなどの感染症にかからないように御注意いただきたいと思います。
世界情勢に目を向けますとイランとアメリカ間の軋轢、香港問題など多くの争い事が絶えません。何とか世界中の人々が皆仲良くしてワンチームにまとまり、地球の崩壊を起こさないように努力することができないものでしょうか。
国内では昨年、新天皇陛下が即位され年号が平成から令和へと変わりました。政治的、経済的、福祉的な面で更に素晴らしい日本となって世界の範となってほしいものです。

当院では開院以来今年で満40年を迎えることとなります。開院よりスタートした透析室も当然同じ40年を迎えるわけであります。この間、常により良い、全国の最先端レベルの透析、丈夫で長生きできる透析をスタッフ全員で目指して頑張って参りました。
その詳細は以下の通りです。
① ドライウェイトのより正確な判定法
② 注射のみならず内服(飲み薬)も含めた新しい貧血管理
③ オンラインHDF、HD、I-HDFなどを駆使したそれぞれの患者さん各自にあった透析法の工夫
④ 毎月の検査結果に基づいたCKD-MBD(慢性腎臓病による骨ミネラルの障害)の厳重な管理によって血管の石灰化、心臓の弁障害の予防
⑤ 管理栄養士による各患者さん個人個人にあった栄養指導
⑥ シャントエコーなどによる細かいシャント管理
⑦ 透析アミロイドーシスの治療(リクセルetc.)と予防
⑧ フレイル、サルコペニアなど心臓や筋肉の衰えを予防する運動療法
など、常にその時点での日本における最先端の治療を施行できるように努力して参りました。今後ともこの精神を大切にして日々努力をして参りますので、大いに期待していただくとともに、皆様方のしっかりとした自己管理をお願いしたいと考えておりますのでよろしくお願い申し上げます。

今月号は久しぶりの発刊となりましたので、昨年の三島クリニック講演会における上村太朗先生の御講演内容のまとめとビタミン剤の上手なとり方の話など盛り沢山の内容となっております。大いに参考になさって下さい。

理事長 溝渕 正行

 

第18回三島クリニック講演会

演題名 「透析患者さんが元気で長生きするために必要なこと」
講師  松山赤十字病院 腎臓内科 部長 上村 太朗先生 

透析治療における重要なポイントは、①体液・血圧管理、②腎性貧血に対する治療、③溶質(毒素)の十分な除去、④骨粗鬆症(医学用語ではCKD-MBD)に対してしっかり治療、⑤栄養状態を良くする、⑥シャント(バスキュラーアクセス)です。

透析患者さんの体液・血圧管理

透析患者さんの高血圧の原因はいろいろありますが、一番の原因は体液量の過剰によるものです。ドライウエイト(適正な体重)調整で60%以上の患者さんの血圧を適正化できると報告されています。水分摂取量を制限するためには、塩分を控えることが必要です。それは、血液中の塩分濃度が濃くなると、喉が渇いて水を飲んで薄めようとするためです。透析間体重増加(除水量)を2kg前後にするためには、1日の水分摂取量(飲水量)を600ml程度に抑える必要があります。そのためには1日の塩分摂取を6g未満にすることが必要であるといわれています。塩分摂取量を守って水分管理を行い、透析前血圧を140/90mmHg未満にコントロールすると生命にかかわる心血管系の合併症が少なくなります。

透析患者さんの貧血管理

腎臓が悪いと貧血になる理由は、機能が低下した腎臓からは血液を造る指令(エリスロポエチンというホルモン)が少なくなり、骨髄(血液を造る工場)で血液が造られにくくなるためです。貧血がなぜ悪いかというと、血液が薄くなり全身が酸欠状態になるからです。
貧血状態が強いまま長期に続くと、QOL(生活の質)低下、認知機能の低下、心臓の負担が増えることになって心血管疾患の罹患率・死亡率の増加が起こります。なお、貧血の原因が消化管出血のこともありますので、定期的に胃腸の病気の検査を行うことも大切です。

透析患者さんの溶質(毒素)管理

毒素がどれだけ除去できているかの標準的な指標にKt/V(ケーティーオーバーブイ)というのがあります。Kt/Vとは、透析器のクリアランスK(除去性能)と透析時間tを掛け算したものを体液量Vで割った値で、この数値が大きいほど毒素がよく抜けているということになり、合併症も少ないといわれています。Kt/Vの目標値は1.4以上です。
Kt/Vの値を大きくする、すなわちたくさんの毒素を除去するためには、透析膜(種類・大きさ)・血流量・透析時間を調整することが重要です。

透析患者さんのカルシウム、リン管理

リンとカルシウムは腸から吸収されて99%程度が骨に蓄えられますが、余分なものは本来腎臓から尿中に排泄されます。しかし、透析患者さんでは腎臓からは出ていかないので、リンとカルシウムをたくさん摂り過ぎた場合は、透析で除去しきれない分が骨以外のところに溜まってきます。特に余分なリンとカルシウムが一番接している血管に溜まってくることになります。これを血管石灰化といいますが、簡単にいうと動脈硬化ということです。
血管の石灰化は全身の血管に起こるのでいろいろな臓器障害につながります。例えば、冠動脈(心臓の血管)に石灰化が起こると狭心症心筋梗塞、脳の血管に起こると脳梗塞、下肢動脈に石灰化が起こると脚の血流が悪くなって最悪の場合下肢切断に至ることもあります。このように血管の石灰化は非常に重篤な状態につながりかねないので、リンとカルシウムの管理は重要です。カルシウムとリンを蓄積させないためには、透析時間を長くしてリンをたくさん除去することやリン吸着薬を服用してリンの吸収を抑えることです

種々の食品中のリンの注意点

添加物のリンは腸での吸収率が100%といわれているので注意が必要
加工肉、ハム、ソーセージ、プロセスチーズ、魚では内臓も丸ごと食べる魚、乳製品、などにはリンが多く、コーラをはじめ炭酸飲料、コーヒーでもインスタントは一般的にリン含量が多いですが、植物性の蛋白に含まれるリンの多くはフィチン酸と結合し吸収率は低く、オリーブ油などの植物油にもリンは少ないので上手に利用してください。
加工食品の添加リンは食品加工過程で加えられ、内部に染み込まないため、お湯にさっと通すだけで低減することが可能です。例えば、インスタントラーメン・中華麺はゆでこぼす、魚肉・練り製品は下ゆでする、ハム・ソーセージは湯通しする、などを実行してください。ただし、添加物(無機リン)が溶け出たお湯は必ず捨てることが大切です。
透析患者さんは栄養(カロリー)のあるものをしっかり食べて、しっかり運動して痩せないようにしましょう。上手なカロリー補充方法としては、粉飴やMCT(中鎖脂肪酸)製品を利用することをお勧めします。インターネットや通販で簡単に購入できます。

安定したシャントは安定した透析に必須の条件
バスキュラーアクセスには、内シャント(AVF)、人工血管(AVG)、動脈表在化、透析用長期留置カテーテルなどがあり、それぞれ長所と短所はありますが、何より大切なのは今のシャントで長く安定した透析を行うことです。そのためには、瘤にならないように穿刺場所をずらす・穿刺を上手にする、閉塞しないように風船治療を行う、感染に注意するなどが大切です。シャントを長持ちさせるために患者さんが気を付けることとしては、●シャントの血管を圧迫しない●シャントの状態をチェックする、●シャント肢を清潔にしてシャント感染を防ぐ、などです。

これまでの話をまとめると、元気に透析治療を続けていくためには、「しっかり食べて(リン/塩分/水分は控える)、しっかり動いて、しっかり透析する」ことが重要なことです。
これらを実行することによって、さまざまなことが好循環につながっていき、合併症のない透析治療を継続して行くことができ、元気に長生きができると思います。

 

水溶性ビタミン(ビタミンB群、ビタミンC)をサプリメントで補充

管理栄養士 飛鷹 佳枝

ビタミンは脂溶性ビタミン【ビタミンA.D.E.K】と、水溶性ビタミン【ビタミンB群(ビタミンB1.B2.B6.B12、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビオチン)、ビタミンC】の大きく二つに分かれます。水溶性ビタミンはその名のとおり、水に溶けるビタミンです。一方、脂溶性ビタミンは水に溶けにくいビタミンで、過剰に摂れば身体に害を及ぼすことがあります。

透析患者様は、水溶性ビタミンが不足しやすいと言われています。その理由として、たんぱく質の制限や、野菜や芋類の水さらしやゆでこぼし、透析での喪失が挙げられます。また、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12は、透析患者様に起こりやすい動脈硬化を予防する働きがあると言われています。

欧米では水溶性ビタミンを多くの患者様が飲んでおられますが、日本では飲まれている方が少ないのが現状です。これは、米国では、腎不全患者用のビタミン製剤があるのに対し、日本では処方できる薬がないことが一番の原因ではないかと考えられています。さらに多数の薬を飲んでいる人が多いため、積極的にこれらのビタミン剤を内服することを勧めていないのも一因ではないかと思われます。

最近の研究では、水溶性ビタミンを飲んでいる人は、飲んでいない人に比べて有意に生存率がよいという結果もでており、ビタミンB群を代表とする水溶性ビタミンをサプリメントから補充することが勧められています。しかし、ビタミンCについては、透析患者様は健常人と同じ量を飲むと多すぎてしまうことがあります。
総合ビタミン剤(マルチビタミン)は、各種ビタミンを同時に摂ることで、相乗効果が期待できるとされていますが、健常人向けマルチビタミンは、摂り過ぎると有害なビタミンA、効果が期待できないビタミンD、過剰なビタミンCが入っており、透析患者様にはよくないものも含まれることがあります。

健康食品やサプリメントには、好ましいものとそうでないものがあります。摂られているものがいいものかどうかは、患者様の状態にもよりますし、薬として処方されている場合もありますので、主治医の先生や透析室のスタッフ、管理栄養士に確認することが一番確実です。